Oリング・オイルシール技術講座 第2回は「Oリング不具合事例と対策」という題目でお送りいたします。講師は株式会社サカエ SSE課の粟倉が担当いたします。今回の講習は「Oリング不具合事例と対策」ということで、ご使用いただいているOリングが使用直後や、想定していたよりも短期間で漏れが発生してしまうような事例について、原因と対策を解説いたします。保全担当者の方、必見のセミナーとなります。是非ご視聴ください。
【講習のアジェンダ】
1.Oリングに求められる特性
2.不具合事例と対策
2-1.主な漏れ原因
2-2.不具合事例・要因・対策
3.質疑応答
【本セミナーの文字起こし(要約)】
▶Oリングに求められる特性
Oリングはシール性を一定期間保つために、これらの特性に注意し、設計・選定を行う必要があります。使用されるOリングの特性が使用条件に合っていない時、早期の劣化・破損や流体の漏れ発生の要因となります。
使用条件と特性が合わない要因によって、Oリングには異なる症状が発生します。
▶不具合事例と対策
こちらは主な漏れの要因をまとめたフローになります。Oリングの漏れは、Oリングと取付溝の接触面を横断する連続したスキマが発生することで起こります。その要因は、つぶし代の不足、ゴム弾性の不足、外観上の傷、またはその他の症状でOリングに表れます。漏れを起こす要因は様々あるため、それぞれの事例について解説をしていきます。
▶不具合事例:へたり
まずはへたりの不具合事例になります。
【状態】
溝形状にならった状態に変形している
圧縮されていた接触面が平面状になっている
通常、ご使用いただいているOリングは時間の経過とともに、いわゆる経年劣化によってへたりが発生しますが、こちらの事例は早期にへたりを発生したことで漏れに繋がった事例になります。
【早期のへたりの原因】
・過大な圧縮や過度の高温環境で使用している
・シール対象物との相性が悪い
通常、ゴムを使用すると経年劣化によってへたりは進行しますが、温度が高い場合、そのへたりの進行速度が加速されることで、急激なへたりの発生に繋がります。
【対策】
・圧縮率の見直し
・耐熱性やシール対象物との相性によるゴム材料の見直し
シール対象物との相性が悪くへたりが発生している場合にも、シール対象物に対して耐性のあるゴム材料への見直しを行っていただくことをお願いします。
▶不具合事例:圧縮割れ
次の事例は圧縮割れの事例となります。
【状態】
圧縮されていた接触面に深い割れがある
著しい場合、かみ砕いたようになる
【原因】
・高温下で使用していた時に圧縮率が過大になった場合
・シール対象物との相性の問題で、急速で過大な膨潤が発生した場合
【対策】
・適度な圧縮率への見直し
・シール対象物との相性を確認し、材料の見直しを行う
▶補足資料 圧縮率と(へたり・シール性・圧縮割れ)
こちらは、圧縮率とへたり・シール性・圧縮割れについての環境を示した資料になります。グラフの縦軸は圧縮永久歪(へたり)を、横軸は圧縮率の関係を表したグラフになります。ゴムの種類によって圧縮率は多少違いますが、40%くらい圧縮すると圧縮割れを起こします。Oリングの圧縮率について適切な部分というところ、シール性と組付け性を考えると、圧縮率8~30%で設定していただくことが良いのですが、へたりに対する耐久性を考慮するとおおよそ20%くらいの圧縮率としていただくことが良いかと思います。
▶不具合事例:膨潤
次の事例は、膨潤の事例になります。
【状態】
全体的に柔らかく、ブヨブヨに膨らんでいる
【原因】
・シール対象物に対して使用しているOリングのゴム材料が適合していない場合、
相性が悪く、耐性がないことが考えられる
・軽油・ガソリン等で洗浄後、機器に残っている洗浄剤が原因となる場合がごくまれにある
【対策】
・シール対象物との相性によるゴム材料の見直し
・洗浄剤による膨潤の場合は洗浄剤の除去
▶補足資料 ゴム材料とシール対象物の耐性について
ゴム材料とシール対象物の耐性についての表です。Oリングに使用されるゴムの種類は様々あります。NBR、H-NBR、アクリルゴム、フッ素ゴム、エチレンプロピレンゴム、シリコンゴム、スチレンブタジエンゴム等。こういったゴム材料はシール対象物との相性がそれぞれ異なっています。例えば、NBRであれば鉱油系等の油に関しては耐性がありますが、アルコールには耐性がありません。逆にエチレンプロピレンゴムですと、水やアルコールに対しては耐性がありますが、鉱油など、油には全く耐性がありません。このような形で、ゴムの種類によって耐性のあるなしがあるため、シール対象物との相性についてご確認いただき、ゴムの選定をしていただくようにお願いいたします。
▶不具合事例:硬化・クラック
次の事例は、硬化・クラックの事例になります。
【状態】
Oリングが硬くなり、曲げようとすると亀裂が入るような状態
【原因】
使用温度がゴム材料の耐熱限界を超えている
【対策】
・使用温度を下げる
・Oリングのゴム材料を耐熱性の優れた材料に変更する
使用温度を下げるということは装置側の問題もあるため、どちらかと言うと、耐熱性の優れた材料に変更していただくことになるかと思います。例えば、NBRをご使用中のお客様であればアクリルゴムに変えていただく、H-NBRに変えていただく、それでも硬化が発生するということであれば、さらに耐熱性の良いフッ素ゴムに変えていただくことが対策となります。
▶不具合事例:オゾンクラック
次の不具合事例は、オゾンクラックです。
Oリングの全周に向かって細かな割れが発生しているのがオゾンクラックの特徴です。
【状態】
Oリングの表面全体にひび割れ状の亀裂を生じている
【原因】
・Oリングを伸ばした状態で空気中に放置した場合、オゾンの影響で発生
・Oリングに用いるゴム材料の中では、特にNBRに発生
【対策】
・耐オゾン性に優れたゴム材料の見直し(H-NBR、FKM等)
・伸ばした状態で空気中に放置しない
・どうしてもNBRを伸ばした状態で使用したい場合には、
直接空気に触れないようOリング表面にグリスや油を塗布して使用する
▶不具合事例:はみ出し
次の事例は、はみ出しの事例になります。
【状態】
非加圧側で溝エッジ部にあたる部分が全周、または部分的に細かなチギレが進行した欠損がある
【原因】
・Oリングの使用条件に対して過度の高い圧力がかかっている場合
・Oリングの取付溝のスキマが大きい場合
・使用するOリングの硬さが低い場合
・設計値で溝の寸法に対してOリングが過剰に充填されている場合
・シール対象物との相性が悪く膨潤が大きい場合
膨潤が大きい場合や過剰充填による場合は、溝からはみ出そうとするプロセスが若干異なり、溝の中に納まりきらないゴムがスキマにはみ出すことで、はみ出しによる欠損と合わせてOリングの断面が若干溝形状にならったような、四角のような形に変形することが見受けられます。
【対策】
・圧力の低減やスキマを小さくすること
・ゴム材料の硬さを硬くすること
・シール対象物との相性によるゴム材料の見直しを行い、膨潤が発生しないようにすること
・Oリングの取付溝の寸法に余裕があれば、バックアップリングを併用すること
▶補足資料 すきまとはみ出し
スキマとはみ出しに対しての資料です。
グラフは縦軸に流体の圧力、横軸に直径すきま、取付溝のスキマを表したグラフになります。Oリング用のゴム材料は、ゴムの種類によらずゴムの硬度によってはみ出しの有無が決まります。グラフの赤線はゴム硬度が70°のグラフ、青線はゴム硬度80°のグラフ、茶色の線はゴム硬度90°のグラフ。U565というのはウレタンの90°のもの、U801はウレタンの硬度94°のものを表すグラフになります。各グラフの左下側が、はみ出しのない領域になります。右上側がはみ出しありの領域になります。各硬度のグラフの左下側の領域でOリングの使用をしていただくとはみ出しが発生しない領域になるため、こちらの条件で確認していただき、Oリングを選定していただくことをお願いします。
▶補足資料 バックアップリング
はみ出しに対してはバックアップリングも有効になります。ここでは、バックアップリングのはみ出しに対して有効なメカニズムについて紹介しております。図1はOリングに圧力がかかった際にはみ出しが発生している図になります。これに対してOリングの非加圧側の側壁にバックアップリングを入れることでスキマが無くなり、Oリングのはみ出しが発生しません。
▶補足資料 バックアップリング
バックアップリングの形状の違いによるスキマを埋めるメカニズムを説明しています。バイアスカットタイプの場合は、バイアスカット部が圧力によって広がることで外径が拡大し、スキマを埋めることになります。エンドレスタイプの場合は、圧力作用によりOリングと溝側壁に挟まれることにより、バックアップリング自体が変形を生じ、スキマを埋めることになります。これらバックアップリングの変形によってスキマを埋めることでOリングのはみ出し対策に繋がるため、バックアップリングを使っていただくことも対策となります。
▶不具合事例:カジリ
次はカジリの不具合事例になります。
【状態】
局部的に一度でえぐられたような損傷がある
【原因】
・面取りの大きさが不十分なもとでの無理な組込み
・組込み時の軸芯ずれ、傾き
・つぶし代の大きな設定での組込み
・組込み時の潤滑剤不足、挿入速度大
・円筒面用途でのたるみ
・平面用途での浮上り部分の挟まり
【対策】
・適切な大きさの面取りを施す
・潤滑剤を塗って滑りを良くし、挿入抵抗を減らす
・つぶし代やOリング寸法の見直し
▶補足資料 面取りの必要性
上記の絵は、相手ハウジング側に面取りがない場合に、軸に取り付けたOリングをハウジングの穴に挿入する際、ハウジングの角部によって、Oリングが傷つきやすいような状態になっていることを表している絵です。この状態で軸を挿入すると、エッジの部分でOリングの傷付きが発生しやすいです。これに対し、面取りやエッジ部にRを設けることで、Oリングが徐々に圧縮されていき、スムーズな取り付けが可能になります。また、面取りの最後のエッジ部には、Rを設けていただくことで、エッジ部でのひっかかりもなくすことができ、Oリングの損傷を防ぐことができます。面取りの角度ですが、大体15~30°くらいを目安に面取りをお願いします。また、端面の面取り部分の外径寸法ですが、目安としてはハウジングの穴寸法+つぶし代の3倍程度の径を設けていただくことをおすすめします。エッジ部のRにつきましては、R2くらいの寸法のRを設けていただくと、Oリングがスムーズに挿入できるかと思いますので、カタログを参考に、面取り、エッジ部のRについて設定していただくことをお願いいたします。
▶補足資料 組込み時の注意点
組込み時の注意点の補足資料になります。軸におねじの加工がある場合は、そのまま取付するとOリングに傷が発生するため、挿入用の治具を用いてOリングがネジ山に直接接触しないように取付をお願いします。また、この場合、組込み用の治具の外径ですが、取付部よりは径が大きくなるため、Oリングを引っ張って装着するようになります。Oリングはゴム材料特性値というのがカタログに記載されているのですが、そのゴム材料特性値伸びの40%をOリングの伸ばしの上限の目安として、取付用の治具の外径寸法の設定をお願いします。また、Oリングを装着する際は相手面及びOリングにシール対象物を塗布していただくことで、摺動抵抗が減り、取り付けをスムーズに行うことができます。また、面取りを設けていただいてもスライドの絵のように、角度が急でしか面取りができない場合にはOリングを噛み込む場合があるため、噛み込まないように挿入速度に注意をして、取付をお願いいたします。
▶不具合事例:異物付着
続いて異物付着の事例になります。
【状態】
表面に異物が付着して表面が滑らかでない
※異物が硬く尖ったものであればシールを傷つける
【原因】
・組込み時の異物混入
・周辺構造物に付着していた屑・摩耗粉
【対策】
Oリングを取り扱う環境でゴミや異物の管理を行う
例えば異物が金属の切削粉等のように固く尖ったものですとOリングに傷付きが発生するため、こういった部分についても管理が必要になります。Oリングの取扱い環境につきましては注意をお願いします。
▶不具合事例:平面内壁無による不具合
次は平面内壁無による不具合事例です。
【状態】
Oリングにエッジの当たり痕があったり、屈曲痕が見られる
【原因】
平面外圧用で使っていただく際にOリングの内側に壁がないことで、
Oリングが圧力に耐えきれずに一部屈曲を伴って内側に変形してしまうことになる
【対策】
Oリング内周側にも壁を設ける
平面外圧用や平面内圧用途で使う場合には、非加圧側に壁を設けていただくことをお願いします。
▶不具合事例:摩耗
最後の不具合事例は摩耗になります。
【状態】
Oリング接触部に摩耗が発生している
【原因】
・接触面の仕上げが粗い場合、圧力変動によって摩耗が発生する
・潤滑が不十分
・異物の混入
【対策】
・接触面の仕上げ・面粗度を適切にする
面粗度については、カタログにも面粗度の推奨値がございますので、そちらを参考にお願いします。
・潤滑剤を十分に塗布し、摺動抵抗を減らす
・Oリング取扱い環境のゴミ・異物の管理
・使用環境にあったゴム材料への見直し
本日のセミナーは以上の内容になります。不具合の要因は、本日の事例が複合して発生したり、また本日ご説明した要因以外の要因で発生することもあります。ご使用されますOリングに短期間で漏れが発生した際にはご相談ください。原因の特定について、ご協力をさせていただきます。本日はありがとうございました。